黒谷研究室

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研究紹介


研究背景
   私は学生のころからずっと「役に立つ研究をしたい!」と思ってやってきました。 でも、もともとは、基礎研究が大好きで、私の研究はいつ世の中役に立つ時が来るのだろう?と 思いながらどうやって応用していけるか探り続けています。
 私の研究は、学生時代に免疫学教室でモノクローナル抗体の作製に始まりました。 修士課程から米国カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)でのポスドクまでの約8年間は 視床下部・下垂体といった脳の中でも体内のホルモンを調節する器官の研究を行いました。 その後、米国衛生研究所(NIH)に移り、現在まで約7年間肺の研究をしています。 その間、磁石にくっつく抗癌剤の研究も始め、現在に至っています。
 私が今最も興味を持っている研究の一つが肺の上皮細胞に発現するSCGB3A2というタンパク質の機能解明です。
     
これまでの成果
(1)新規生理活性物質SCGB3A2の肺発生における役割
 
 初めに、どの時期にどのようにSCGB3A2がマウス胎仔肺で発現するのかを検討しました。 この結果、SCGB3A2は、特に気管支が分岐をする先端に発現するように見えました。 そこで、マウス胎仔の器官培養肺にSCGB3A2を与えると顕著に分岐が進むことが分かってきました。 この研究ではSCGB3A2が肺の成熟も助けることを明らかにしています(Am J Respir Crit Care Med. 2008, 178(4):389-398)。













     
 右の写真(→)は特に気管支の先端部分にSCGB3A2の発現がみとめられました。
   
 マウス胎仔肺の器官培養。SCGB3A2を与えると、右の写真のように肺の分岐が進んでいるのが分かりました。
(2)SCGB3A2の肺疾患における役割
 

 多くの肺上皮細胞で産生されるサーファクタントなどのタンパク質が炎症を抑える効果を持つことが知られています。 その中でCCSPと呼ばれるタンパク質はSCGB3A2の仲間と考えられています。 また、SCGB3A2の遺伝子座の解析から、SCGB3A2が炎症を抑える可能性が見出されました。 そこで、気管支肺炎モデルマウスを用いて、SCGB3A2が肺炎を治すことを明らかにしました(下図)(Am J Respir Crit Care Med. 2006, 173(9):958-964)。
 さらに、SCGB3A2は肺が固くなってしまう線維症という病気にも効果を発揮することを明らかにし、2011年に論文を発表しました(右図)(J Biol Chem. 2011 in press.)。

    

 気管支喘息(肺炎)モデルを利用したSCGB3A2の抗炎症作用の検討。 炎症が起こっている肺(左)では、リンパ球はたくさん集まり、気管支上皮細胞も厚くなっています。 一方、SCGB3A2を高発現させた肺(右)では、正常と同様の組織像を示し、炎症は見られませんでした。

 成獣マウス肺組織から線維芽細胞を単離し、TGFβで刺激すると、線維芽細胞が巨大化して筋線維芽細胞になっていきます(写真中央)。この筋線維芽細胞が線維化のもとになってしまいますが、SCGB3A2を与えると、筋線維芽細胞にならず、正常の線維芽細胞のままでいようとします。

  
 肺線維症を誘導したマウス(Group1)では肺胞が線維化で満たされ、マッソン・トリクローム染色でコラーゲン線維が青く染色されています。しかし、Group1のマウスにSCGB3A2を投与すると肺は正常の形態を示しました(Group2)。
 また、SCGB3A2の発現を免疫組織化学法(免疫染色)で調べると、線維化肺(Group1)では、線維化が起こっているところにSCGB3A2が溜まっているような像をしめしました。もしかしたら、SCGB3A2が過剰に分泌して線維化を治そうとしていたのかもしれません。
 
今後の展望
   SCGB3A2の肺における役割を解明することで、赤ちゃんの肺が正常にできるメカニズムが分かったり、肺の病気を治したりできるのではないかと期待しています。

(1)肺の発生における分子メカニズムの解明
 
 肺発生におけるSCGB3A2の分子メカニズムを理解するために、ある条件下での肺発生時に変動する遺伝子をマイクロアレイによって網羅的に解析しました。この結果得られた個々の遺伝子が肺発生にどのように影響を及ぼしているのかを明らかにしたいと考えています。

(2)慢性閉塞性肺疾患(COPD)におけるSCGB3A2の効果の検討
 
 死亡原因は脳疾患、心臓病、癌が主なものであると思っているかもしれませんが、実は肺疾患も主な死亡原因の一つになっています。特にCOPDといって、喫煙などを原因とし、長い時間をかけゆっくりゆっくり進行する病気は、発症メカニズムの解明が非常に難しいです。そのため、治療薬の開発にも多くの時間を必要とします。
 SCGB3A2が肺炎にも肺線維症にも効果があることから、COPDといったより複雑な疾患にも何らかの効果を示すのではないかと期待しています。現在、煙草曝露装置を作成しましたので、すぐにでも煙草が肺に与える影響とSCGB3A2の効果を調べて行きたいと思っています。

(3)SCGB3A2による下垂体ホルモン産生制御機序の検討
 
 最近になって、SCGB3A2は下垂体ホルモンの産生にも関与することが分かってきました。特に性腺刺激ホルモンを制御する可能性が見出されてきました。そこで、基礎的な興味から、性腺刺激ホルモン産生制御機序の解明を進め、将来的には婦人科系の疾患への応用を探っていきます。

(4)新規磁性抗癌剤の研究
 
 横浜市立大学および横浜国立大学との共同で、磁性化合物を利用した新しい癌治療法の開発を行っていきます。

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